大学院生対象の学際融合教育科目「大阪大学版 大学院での新しい学び方 -学際と社会関与をデザインする-」を開講しました(2025年度夏学期集中講義)
昨年度に開講した「大阪大学版 大学院での新しい学び方」の授業を3日間の集中講義として、「学際」と「社会関与」を副題に据えてリニューアルしました。夏学期の通常授業期間直後の8/8(金)、9(土)、10(日)に吹田キャンパスのテクノアライアンス棟で開講しました(担当教員:田尾俊輔助教、堀井祐介教授、島村道代教授、李明招へい准教授)。大阪大学の大学院教育では、専門力を一層伸ばすために、「学際融合の推進」や「社会課題の解決」の二方向にも教育を展開しており、そのシステムを「学際融合・社会連携を指向した双翼型大学院教育システム」(DWAA)と呼んでいます。この授業は、DWAAや総合知の考え方に従って、大学院での学びを主体的、戦略的にデザインできるようになることを目的としています(本授業のシラバスを参照)。

集中講義の構成としては、1日目に「大学院での学びと異分野間研究発表」、2日目に「共同研究を考える」、3日目に「研究の社会関与を考える」としています(本報告末尾のスケジュールも参照)。1日目は自身の大学院での学びや専門・研究の内容を専門外の他者にいかにわかりやすく伝えることができるかがポイントとなっており、2日目はDWAAの左翼(学際融合の推進)、3日目はDWAAの右翼(社会課題の解決)に焦点を当てる形です。

1日目は「大学院での学びと異分野間研究発表」がテーマです。まずは、授業オリジナルテキストを読んだ感想をグループで共有し、「大学院での学び」のイメージを形作ります。その後にボードゲームDAIGAKUをプレイして学部での学びを振り返りながら、「大学院での学び」を対比的に考えます。参加者間のアイスブレイクとしても機能しています。

続いて、大学や学問の歴史を学び、「大学院での学び」に関するディスカッションとまとめを行います。ここで、この3日間の集中講義を通して、大学院でどのようなことを学んでいくと良いのかを考えることを改めて意識してもらいます。

1日目の最後は、「異分野間研究発表」を行います。1人あたり発表5分、質疑応答8〜10分を目安の時間として、1人ずつ前に出て発表します。プレゼンターとして説明するだけでなく、聴衆として質問ができるようになることも目標としており、聞き手は各人の発表後にウェブフォームに質問を少なくとも1つは入力してもらうようになっています。自分の研究を話せること、そして他者の話を聞いて質問できることは、他分野や社会と協働するために重要なスキルの一つです。これらの練習は、2日目と3日目の活動にも活かされます。

2日目は「共同研究を考える」というテーマで授業を展開します。より具体的に言えば、異なる分野の大学院生同士でペアを組み、生成AIを活用しながら共同研究のアイデアを深めていきます。生成AIに入力するプロンプトを工夫しながら、異なる分野間でのコミュニケーションを促進させ、お互いの理解を深めた上で、共同研究案を作成していく作業です。午前中はペアを何回か変えながら練習を重ね、共同研究の実際の話をTF(ティーチング・フェロー)のKangさんに紹介していただき、共同研究への理解を深めました。

午後は、共同研究を一緒に考えたい人とペアになり、共同研究案のポスター発表に取り組みます。ポスターを作成する前に、ゲストスピーカーからお話を伺い、専門分野を越境することの価値や面白さ、異なる専門を持つ人と対話をする際に工夫している点を学びます。今回は、株式会社よそ見代表のいいだ様にお越しいただきました。いいだ様は「ゲームさんぽ」という、様々な分野の専門家をゲストに迎えて雑談しながら「ビデオゲームの世界に存在しているモノ」を観察・分析していく番組をYouTubeで展開されています。どんな研究も何かにつながっており、他者と関わる際にも共通点を探すことが重要であるということを、現在のお仕事や多様な文献をもとにわかりやすく説明してくださいました。

その後、1時間ほどペアでポスターを作成してもらい、ポスター発表タイムへと移ります。受講学生と教員、ゲストのいいだ様の間で活発な意見交換を行います。1日目の最後に実施した異分野間研究発表の経験も踏まえながら、聞き手も積極的に質問をしていました。

最終日の3日目は「研究の社会関与を考える」というテーマです。まずは基礎研究が社会に応用される事例を参考にしながらディスカッションをしてもらい、研究の社会実装に対するイメージを膨らませます。その後に、2日目と同様に生成AIを用いながら、研究の社会実装のアイデアを考えていきます。生成AIに入力するプロンプトを工夫しながら、多様な角度から社会実装の可能性を捉えます。途中でグループワークを挟み、他の受講学生や教員・TFからのコメントをもらいながら、アイデアを洗練させます。

午後は、午前中に考えた案をさらにブラッシュアップして、研究の社会実装案のポスター発表を行います。ポスターを作成する前に、ゲストスピーカーからお話を伺い、社会実装を行う上で意識されていることや工夫されていることを学びます。今回は、大谷大学の大川ヘナン先生と京都女子大学の江端木環先生をお招きしました。大川先生は教育社会学と移民研究がご専門であり、インタビューやフィールドワーク、ご自身の在日ブラジル人としての人生を書き出すオートエスノグラフィの手法を用いて、移民ルーツの若者の大学進学や就職の有り様を研究されています。江端先生は建築やまちづくりがご専門であり、漁村集落の祭りの研究や三重県尾鷲市九鬼町での事前復興まちづくりの実践をされています。お二人のご経験に基づく豊かなお話から、当事者研究の意義や研究を社会に届ける際の多様な取り組み方、地域の人々とのつながりの大切さを学ぶことができました。


ゲスト講義の後は、受講学生各自が研究の社会実装案をポスターにまとめ、2日目と同じようにポスター発表の形式で交流を行います。今回、3日目の授業には希望する学部生にも参加してもらい、多様な立場からのコメントが出てきて、その分学びも深まったように思います。

以下は今回の授業の受講学生による感想を抜粋したものです。
- 様々なフィードバックは、⾃分の研究の⽴脚点を改めて⾒直すきっかけとなりました。 と同時に、自身の研究や発表内容に具体的な関⼼を寄せていただいたことは、とても励みになりました。 このような学際的な場に⾝を置くことで、他者の視点を通じて自身の研究を客観的に見つめ、今後の研究計画に活かしていこうと思えました。
- 3日間クローズな体験を共にするメンバーは多様な背景をもち、フィードバックが自身の研究を俯瞰してみる経験に繋がり、共同研究や社会実装について、机上の知識ではない実体験につながる学びになった。
- 講義前後で共同研究や社会実装への意識や知識が変化する得難い経験をした。また人脈も広がった。
- これだけ練り込まれて、新規で有用な講義はなかなかないと思うので、ぜひたくさんの人に受講してほしい。
本授業は冬学期2026/2/9(月)、10(火)、11(水)にも3日間の集中講義形式で開講します。受講学生の属性やお呼びするゲストスピーカーの方々、開講場所の装いも新たになります。研究を日々頑張っている大学院生の皆さん、本授業で自らの専門性を多様な角度から見つめることで専門力をさらに伸ばすきっかけを得るとともに、新たな学びのコミュニティを作ってみませんか。定員枠に余裕があれば、学部生で興味がある人も聴講参加できますので、授業担当教員にご相談ください。
*本授業は高度教養モジュール「次世代型修士・博士人材のための学際的探究 」の構成科目の一つです。
*授業案内については、こちら も参照してください。
*本授業のTFを務めてくださった人間科学研究科D3のKang Kiwonさん、人文学研究科D1の久木田奈穂さん、アドバイザーとして参加してくださった全学教育推進機構の梶原久梨子先生に感謝申し上げます。
*3日間の授業スケジュール(シラバスより引用、一部修正)
【1日目:大学院での学びと異分野間研究発表】
第1回 「大学院で学ぶ」ということを考える〈オンデマンド授業〉
第2回 イントロダクション:学問とは何か、専門とは何か、学部と大学院の違いは何か
第3回 「大学院での学びのプラン(学際的・社会課題解決型の学びの実践プラン)」作成に向けて
第4回 専門研究の発表と質疑応答①:質疑応答・コメントの方法
第5回 専門研究の発表と質疑応答②:異分野間研究発表会
【2日目:共同研究を考える】
第6回 専門分野の異なる他者と共同研究を構想する①:イントロダクション〈オンデマンド授業〉
第7回 専門分野の異なる他者と共同研究を構想する②:共同研究考案ワーク
第8回 専門分野の異なる他者と共同研究を構想する③:共同研究を実践する大学院生、研究者、社会人によるゲスト講義
第9回 専門分野の異なる他者と共同研究を構想する④:共同研究案のポスター作成
第10回 専門分野の異なる他者と共同研究を構想する⑤:共同研究案のポスター発表&交流会
【3日目:研究の社会関与を考える】
第11回 自身の研究の社会関与を構想する①:イントロダクション〈オンデマンド授業〉
第12回 自身の研究の社会関与を構想する②:研究の社会実装考案ワーク
第13回 自身の研究の社会関与を構想する③:研究の社会実装を実践する大学院生、研究者、社会人によるゲスト講義
第14回 自身の研究の社会関与を構想する④:研究の社会実装案のポスター作成
第15回 自身の研究の社会関与を構想する⑤:研究の社会実装案のポスター発表&交流会