世界の言語文化とグローバリゼーション
人類は太古から大規模な移動を繰り返しながら、言語文化と集団を形成してきました。グローブ(地球)は現在、様々な仮想の境界線によって区切られると同時に、通信網と交通によってつながれていますが、海を渡る人々、陸を移動する遊牧民などに、国境や境界線はありませんでした。今日の世界地図が作られる契機となったのは、コペルニクスの地動説という宇宙についての認識の大転換の後に、西洋の海洋探検家たちの「大航海」によって、アメリカ大陸、アフリカ最南端、アジア、オセアニア地域の存在がヨーロッパで認識されるようになったからです。これらの地域の「発見」が、移民や奴隷貿易も含めた貿易の世界的拡大へとつながり、さらに、18世紀の産業革命以降のグローバルな変化は、世界を一変させました。工業力や軍事力を背景とした近代帝国主義の拡大により、非西欧地域の資源や労働力が搾取された半面、科学技術や近代的社会制度の普及が、世界各地の言語文化や社会構造に大きな変容をもたらしました。
15世紀半ばから20世紀前半までの帝国主義の時代に、社会制度、産業、金融、貿易、軍事面で大変化がおこっただけではなく、地理学、人類学、民俗学等の学問研究の発展により、より広範で精緻な「世界観」が作り上げられ、その知識が著作物となって世界中に流通しました。
一方、旧植民地が次々に独立を果たした20世紀後半からは、エドワード・サイードの『オリエンタリズム』(1978年)によって、世界に流通する「オリエント」認識が西欧の視点から作り上げられたものであることが明らかにされ、ポストコロニアル研究が、旧植民地の視点から植民地主義の歴史やその言語文化的な影響を批判的に検証し、旧植民地における新たなネーションと文化の形成に着目する研究を力強く進めていきました。グローバリゼーションによって国家や民族や宗教、さらにカルチャーやジェンダーの概念そのものが変容しました。また、20世紀後半以降には世界人口の急増に伴う森林伐採と資源開発の加速化、軍事と産業による核や原子力、AIなどの科学技術の開発が、生態系と社会構造に大きな変化をもたらしました。
21世紀に生きる私たちは、気候変動、災害、感染症の拡大、廃棄物などの環境問題、紛争やテロリズム、社会格差の問題など、様々な課題を抱えています。そして、それぞれの民族や社会や個人は、ネーションの枠を超えて複雑に絡み合うグローバルなネットワークのなかで、自らを「主体者」として様々なメディアで自己発信をしています。
本プログラムは、文学、メディア、芸術による文化表象や社会政治的事象を言語文化的視点から考察し、それらの表象や事象を生む世界の様々な言語文化と社会について深く学ぶことによって、異なる価値や思考に対する共感に基づく多様な社会のあり方を模索し、「他者」と向き合う想像力を養います。グローバリゼーションの世界システムの構造的暴力を批判的に検証すると同時に、自らが発信者となってグローバルなネットワークの構築の可能性を開拓し、文化の交差点に生きる私たちの立ち位置を考えることにより、サステナブルな社会のあり方を思考するための高度な国際性の涵養を目的とします。
身につく能力
本プログラムの学習を通して、以下の能力を備えた方に修了認定証を授与します。
- 理論的な枠組(文学・文化理論、関連分野の理論など)を理解している。
- 文化事象や社会事象(帝国主義とグローバリゼーションの関係性、産業・資本・メディア・言語文化のグローバル化、ネーション、ジェンダー、土着文化、サブカルチャー、文化の受容と発信、異文化接触、翻訳を通した異文化理解、国際関係の協調性と敵対性、国境を越えた人的・文化的な交流、移民・難民・テロリズム、人とモノと自然の共生、環境問題などのテーマを例とする)について、世界の様々な文学や表象の分析、社会政治学的考察、フィールドワークなどを通して、具体的に理解している。
- 上記の理論や知識を応用し、言語文化について論じたり、現代社会が抱える諸問題について考察し、自らの考えを表現できる。
履修条件・履修方法
言語文化と社会との関係について関心があり、その関心を深め、私たちを取り巻く状況の本質を追求しようとする意欲を持っていることを条件とします。